なぜ農作物が狙われるのか?被害が拡大する要因とは
野生動物による農業被害、いわゆる鳥獣害は年々深刻化しています。なぜ彼らは農作物を狙うのか。それにはいくつかの複合的な原因が絡んでいます。自然環境の変化、農地の立地、捕獲・駆除体制の遅れ、個体数の増加などが連鎖的に被害を拡大させているのです。
まず第一に、山林の荒廃と耕作放棄地の増加により、野生動物の生息環境が変化しています。森林伐採や人間の生活圏拡大により、イノシシやシカ、アライグマ、ハクビシンといった野生動物が餌場を失い、人里に下りてくる頻度が増えています。また、かつて里山として管理されていた緩衝地帯が放置されることで、人と動物の境界が曖昧になり、農作物への侵入が日常化しています。
次に、農作物が動物にとって魅力的な「高栄養価の食料源」であることも重要です。とくにトウモロコシやサツマイモ、稲、果樹類などは、野生動物にとって自然界では得にくいエネルギー源であり、効率的に摂取できることから集中して狙われやすくなります。これらの作物は甘味や糖度が高いため、学習能力のある動物にとって一度味を覚えたら何度も訪れる習性が強く、リスクが持続する傾向があります。
野生動物による農業被害の拡大は、動物側の事情だけでなく、人間社会の制度・意識・対応の遅れが大きく関係しています。これらの要因を多角的に分析し、実効性のある鳥獣対策を講じることが、持続可能な農業を守るためには不可欠なのです。
特に狙われやすい作物と地域は?都道府県別の統計データで分析
農業被害の内容をより具体的に捉えるためには、作物別・地域別の傾向を統計的に把握することが欠かせません。実際に農林水産省の調査では、特定の作物に被害が集中し、さらにそれが都道府県単位で偏っていることが明らかになっています。
以下は主な作物別の被害傾向です。
農作物別の被害傾向
作物名 |
主な加害動物 |
主な被害内容 |
特徴 |
米(稲) |
イノシシ、スズメ、アライグマ |
穂食い、踏み荒らし、倒伏 |
水田周辺での被害多発 |
トウモロコシ |
ハクビシン、サル、カラス |
実の食害 |
糖度が高く狙われやすい |
サツマイモ |
イノシシ、ネズミ |
地中への掘り起こし |
特に収穫期前の被害が多い |
果樹(柿・梨・桃) |
サル、アライグマ、カラス |
実の食害、落下 |
甘味の高い果実ほど被害が深刻 |
野菜全般 |
ハクビシン、シカ、ウサギ |
食害・引き抜き・踏み荒らし |
畑周辺の雑草・隠れ場所が影響 |
このように、作物ごとに狙われやすい傾向と動物の種類が明確に分かれており、被害の季節性や時間帯も異なります。さらに、地域ごとのデータを見ると、農地と山林が隣接している中山間地が特に被害を受けやすく、農業集落の周辺に動物が定着するケースも見られます。
被害が集中している都道府県の一例
都道府県 |
主な被害動物 |
特徴的な被害内容 |
補助制度の有無 |
長野県 |
シカ、イノシシ、サル |
果樹や野菜への食害 |
防獣ネット補助あり |
和歌山県 |
サル、アライグマ |
柿・梅への集団被害 |
囲い罠設置支援制度あり |
大分県 |
イノシシ、ハクビシン |
水田周辺の掘り返し |
鳥獣被害防止事業あり |
静岡県 |
シカ、イノシシ |
茶畑・果樹園への侵入 |
電気柵支援金あり |
鹿児島県 |
イノシシ、サル |
サツマイモ・稲被害 |
捕獲報奨金制度あり |
地域ごとの取り組みにも注目すべき点があります。たとえば鹿児島県では、イノシシの捕獲報奨金制度に加え、猟友会との連携によって捕獲体制を強化しています。一方で、和歌山県などではサルの集団行動に悩まされ、音による忌避装置やレーザー装置などの先進的な獣害対策が導入されています。
特に注目すべきは、「学習する動物」に対する対策です。サルやイノシシのような高い知能を持つ動物は、防除のパターンを覚え、次第に適応してくるため、単一の対策では対応しきれません。定期的な対策の更新や複数手段の組み合わせが必要とされます。
また、有害鳥獣駆除の現場では、公務員や猟友会に加え、有害鳥獣駆除従事者証を持つ個人の活動も重要な役割を担っています。わな猟免許を持たずとも設置可能な小型箱罠の普及や、囲い罠の免許不要化なども、地域によっては導入され始めています。
農作物ごとのリスクと地域特性を踏まえ、的確な害獣駆除戦略を構築することが、農業経営の安定と地域の持続可能性を支える鍵となります。行政と農家、そして地域住民が連携して取り組む体制の整備が、今まさに求められているのです。