最新統計と拡大する市場ニーズの全体像/急増する駆除依頼と自治体施策の影響
日本では近年、野生動物による農作物や住環境への被害が深刻化しており、害獣駆除を取り巻く市場は急速に広がりを見せています。環境省の「鳥獣保護管理事業年報」によると、たとえばシカやイノシシによる農業被害は年間142億円に達しており、特に中山間地や過疎化の進む地域では影響が顕著です。
このような背景から、自治体や専門事業者に寄せられる駆除依頼は増加傾向にあり、駆除を専門とする企業や地域団体の参入も進んでいます。
一方で、都市部においてもハクビシンやアライグマなどの外来種が定着しつつあり、屋根裏での騒音被害や糞尿による衛生問題など、住民生活に直結するトラブルが目立っています。これに対し、国や自治体では「特定外来生物対策ガイドライン」や「鳥獣被害防止総合対策交付金」などの政策を強化し、現場での対応体制の整備が進められています。
近年では、個人の狩猟免許保有者による対応から、法人・自治体と連携した包括的な対策へのシフトが進んでおり、効率的な集団管理が重視されるようになっています。
また、法人や施設運営者からの定期管理ニーズも増えており、食品加工施設や医療機関、ホテルなどでは、一定間隔での点検や防除対応を業務委託するケースが広がっています。特にBtoB分野では、このようなニーズの継続的な拡大が市場成長の原動力となっています。
業態別にみた駆除事業者の構成は以下のとおりです。
駆除事業者の業態構成
業態 |
割合 |
特徴 |
個人猟師 |
約18% |
高齢化が進み、後継者不足が課題 |
自治体委託の専門業者 |
約35% |
実績と対応力に優れ、地域との連携も進む |
民間駆除会社 |
約42% |
ICT技術と多様な機器の活用で対応幅が広がる |
NPO・地域団体 |
約5% |
地域密着型の支援と啓発活動に強みを持つ |
このように、単に駆除作業を行うだけでなく、防除の計画立案、再発防止の提案、ICT機器の導入といった多様な支援が求められるようになっており、今後は専門知識と多角的なスキルを兼ね備えた事業者の需要がより高まっていくと考えられます。
2030年までの成長予測とシナリオ別展望
日本国内の害獣駆除市場は今後数年でさらに拡大が見込まれており、とくに2030年に向けた中長期的な成長シナリオが複数提示されています。農研機構や環境省の資料などをもとにした市場調査では、現時点で約950億円と推計されている市場規模が、2030年には最大で1,400億円近くにまで成長すると見込まれています。
以下は、代表的な3つのシナリオをもとにした展望です。
成長シナリオ
シナリオ |
想定される市場規模 |
成長を支える主な要因 |
現状維持型 |
約1,200億円 |
現行制度の安定運用と自治体対応の継続 |
拡張成長型 |
約1,400億円 |
AI・ICT技術の活用と農業法人との連携強化 |
低成長型 |
約1,050億円 |
担い手不足と地域格差の拡大による需要減退 |
とくに注目されているのが、ICTを活用した「デジタル防除ソリューション」の分野です。これはスマート捕獲装置やドローンによる監視、AIによる被害予測・発生分析といった新しい仕組みを指し、全国で約200の自治体が実証事業に参加しています。人手不足の解消や迅速な対応のため、これらの技術の導入は市場拡大の大きな推進力となっています。
今後、需要が拡大すると見込まれる主な領域には以下のような分野が挙げられます。
- 農業事業者向けの捕獲支援と管理支援のパッケージ
- ホテルや観光施設における衛生管理の一環としての定期防除
- 空き家対策との連動による郊外地域での総合管理業務
- 公共機関向けの研修サービス(狩猟免許取得講座、安全講習の実施)
これらの多様なニーズに対応するためには、捕獲技術だけでなく、生態や習性に関する理解、ICTの活用、地域・行政との連携、法令遵守など複合的な視点が必要になります。
さらに、今後の市場拡大においては、地域ごとの対応格差を埋めていくことも課題の一つです。都市部では対応可能な事業者が多く存在する一方で、地方では駆除依頼に対応できる人材や組織が限られており、広域での連携体制や行政の支援制度が求められています。
2030年に向けて、害獣駆除の現場は「単なる捕獲作業」から「地域全体を見据えた持続可能な管理」へと変革していく必要があり、その方向性が業界全体の未来を左右するといえます。